私が子どもの頃に住んでいた町内では、毎年5月頃になると、町内会から数枚の白い大きな紙が配布された。その町内では6月にお祭りがあり、それぞれの家では、前もって配布された紙に好きな絵を描き、色を塗って、それを縦と横が40cm、高さが60cmくらいの大きさの直方体の形をした行燈に貼って、中に豆電球で光を灯し、軒先につるすという慣習があった。
絵を描くのは、基本的にその家の子どもの仕事だった。私も、毎年、兄と一緒に、当時好きだったアニメのキャラクターなどを描いた。お祭りは2日制で、1日目の前夜祭と2日目の本祭があり、私たち子どもにとって楽しみだったのは前夜祭のほうであった。前夜祭には、近くの公民館の前で、小さな露店が作られて、そこで焼きそばやフランクフルトなどの食べ物を買って食べたり、くじやヨーヨー釣りなどのゲームを楽しむことができたからだ。私も、毎年、兄と一緒に、夕方から催されるその露店へ親からもらったお小遣いを握りしめて出かけた。
私が小学3年生か4年生くらいの時だったと思うが、前夜祭で、偶然、近所に住む同学年の友だちと会って、「これから町内の家の行燈を見て回らないか」と誘われた。2人で露店で買った食べ物を片手に、勝手に人の家の門から玄関ドアの前まで入り込み、軒先の行燈に描いてある絵を見ては好き勝手に批評し合った。
今では、同じ町内といえども他人の敷地内に無断で入ることは難しいのでないかと思うが、私の時代はそれで苦情を言われることもなかった。私の心の中にはまだあの日の行燈のおぼろげな光の記憶が残っていて、それをふとした時に思い出すことがあり、私の心を少し温めてくれる。今でもこの慣習が続いてくれていればいいのだが。

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