私の父は勉強に厳しかった。返却されたテストは全て親に見せなければならなかった。私は学校の勉強が特に苦手というわけではなかったが、父の求める水準は非常に高く、基本的に「100点とって当たり前、100点以外は許さない」というスタンスであった。そんなテストに厳しい父との間で巻き起こったエピソードを、今回は2つほどご紹介したいと思う。
まず1つ目は、「テスト綴り抜き打ちチェック事件」である。小学生の頃、私と兄は、子ども部屋として2階の1部屋を与えられており、そこにそれぞれの学習机を置いていた。ある時、父が私と兄の部屋におもむろに入ってきて、これまで返ってきたテストの綴りを見せるよう命じてきたことがあった。父は、いつも私たちに、返却されたテストはきちんと教科ごとにファイルに綴っていつでも復習できるように整理しておきなさいと言っていた。それを私たちが履践しているか抜き打ちチェックが入ったのだ。
いい加減でずぼらであった私はテストを綴っているはずもなく、返却されたテストは、親に見せた後、机の引き出しの中に無造作に入れてため込まれている状態であった。私が父に綴っていないことを告白すると、父の雷が落とされた。私は父の叱責をただただ耐え忍んで聞いていた。ああ、どうして私はこうも怠け者なのだろうと自らを責めながら。
一通り私を叱った父は、矛先を変えて今度は兄にテストを綴ったファイルを出すように命じた。私は兄がテストを綴っているところなど見たことがなかったから、兄も同じように叱られるのだろうと思った。ところが、兄は机のどこかから黄土色をした薄いファイルを取り出し、父に見せたのである。中にはテストがきれいに三つ折りにされて綴じられていた。私は驚愕した。「お兄ちゃん、いつの間に。」私の見たところ、父も少しばかり驚いた様子でファイルを確認した後、私のほうを見て、兄を見習いなさいと最後の警告を発して部屋を出て行った。こうして突然の嵐が過ぎ去った後、私はどこか兄に抜け駆けされたような気持ちでしばらく部屋にただずんでいたことを覚えている。
テストにまつわる2つ目の事件は、「ゴミ箱の中からテスト発見事件」である。これは、非常に単純な事件で、私が親に見せないままゴミ箱に捨てていた理科のテストが親によって発見されてめっぽう怒られたという事件である。
テストの第一発見者は家の全てのゴミ箱を管理支配する母であり、母から父にテスト発見の一報がなされ、私は父に呼び出された。父のところへ行くと、くちゃくちゃにしわのついた理科のテストが机の上に置かれていて、これは何だと詰問された。その理科のテストの点数欄には50点と書いてあり、詳しく覚えていないが、多分、そのようなあり得ない点数(上述した「テストに関する父の点数基準」参照)を見せるのが恐ろし過ぎて、親に見せないままこのテストを闇に葬り去ることを画策した私がゴミ箱に捨てたのだと思う。
一通り私の弁解(どんな弁解をしたかは覚えていないが、弁解の余地はないはずであるから、おそらく不合理な言い訳を述べたと思う)を聞いた父は私に対し、点数のことで怒っているのではない、テストを見せずに親に隠して捨ててしまったというその行為が許せない、それは卑怯者のやることだ、物事を隠すな、卑怯なことをするなと言って激怒した。確かに、父は卑怯なことがとにかく大嫌いで、少しでも卑怯なことや嘘があると烈火のごとく怒った。どんなことがあっても卑怯なことだけはするな、嘘をつくな、正直に生きなさいという父の教えはずっと一貫していたように思う。したがって、私がテストを親に見せないままゴミ箱に捨ててしまい、なかったことにしようとしたことが父は本当に許せなかったのだろうと思う。
もちろん、私は叱られながら自分の行為を恥じた。しかしその一方で、くちゃくちゃに丸められてゴミ箱に捨てられていたこの理科のテストを広げたとき、もしその点数欄に100点と書いてあったら、こんなにも叱られただろうか、点数が悪かったことも父の怒りの炎に相当に油を注いでいませんか?といううがった思いもどこかで抱きつつ、私は、まっすぐにのばされたテストを前に、父からの落雷が止むのを耐え忍ぶであった。
